最後のディズニープリンセス

インターネットのうわさによると、一番最後のディズニープリンセスは全てをさらさらなものにするそうです

海がぼくらの代わりに泣いてくれました

砂浜を歩いていると少女が駆け寄ってきた


「どこかで麦わら帽子を被ったウミウシを見ませんでしたか」


私は思い当たる節がなかった 私は少女と一緒にウミウシを探した


ウミウシは少女のボーイフレンドだった かき氷を買いにいっているうちに消えてしまったのだという


時間がたつごとに少女はみるみる傷ついていった 涙があふれ ちっとも動かなくなってしまうこともあった


ウミウシとのなれそめを話してくれた ウミウシとキスしたことを話してくれた ウミウシのからだはとても暖かいのだという


夜の海は大地が引き延ばされたようで 月は二つになった 私たちは岩場で休むことにした


蟹は言う 「ウミウシはここにはいないよ」


貝が言う 「ウミウシのとこに行ってあげなよ」


少女は蛍光の涙を流し 蟹が背を優しくさすり ミミズが涙をぬぐった 


ピンクの長い髪に 細い指 こんなにかわいい女の子を泣かせるなんて ウミウシの野郎 会ったら一発殴るべきだぜ


けど女の子は泣きながら首を振って 「ううん。私が悪いの。私が彼を怒らせたの」


なんて言ったんだよ 


「あなたを食べちゃいたいって。そしたら彼、ほんとに怖がっちゃって」


そうか……


それから僕達は銀河で水切りをした 跳ねる度に恒星が散って 最後には少しずつ海の闇に溶けながら沈んでいった 


何個目かも分からない銀河を投げようとしたとき 不意に彼女が息を飲んでうずくまった 


駆け寄ってみると 彼女の手の中にはウミウシがいた  やさしく握られていた


「銀河を投げようとしたら、それがたまたま彼が逃げた場所だったのね」


「ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったのよ……」と涙ながらに彼女は謝罪した ウミウシは涙を舐めた 


蟹は踊ったが横にしか動けなかった 貝はリズムをとったがとても単調だった ミミズは何も出来ることがなかったから いそいそと土の中へと潜っていった 


そして私は あてもなく銀河を投げつづけた


ぼちゃん、ぼとんと銀河を海へと投げた ひたすらに投げつづけた とても悪いことをしている気持ちになったが やめる気にもならなかった


私が銀河を投げてぼちゃんと音を立てつづけないと 彼女の嬌声と息遣いで 頭がどうにかなってしまいそうだった


もうどれだけ時間が経ったか分からなくなったころ 投げる銀河がなくなってしまったことに気づいた そして海を見ると 沈んだ銀河たちが海の底で揺らめきながら輝いていた


こうして 上と下は反転し 私の中で何かが永久に終わってしまったのだ


銀河は元いた場所へと帰ろうとする そのたび 私はここで水切りをするのだ 一生 海の底に 銀河たちを閉じ込めるために 銀河は全部ハート型だから こうして 海の底に沈めて 俺が泣かなくても 形がぼやけるように